2023-02-20

NHKBS1ウクライナ 子どもたちの1000枚の絵 制作後記

ウクライナには、2011年の夏に訪れたことがある。
当時、大学院生だったが、一年休学をしてバックパッカーをしていた。

ブルガリアから入って、ルーマニア、モルドヴァへ。
モルドヴァから電車で、ウクライナのオデッサという港町に入った。
そこからキーウ、リビウを旅した。リビウからはワルシャワへ再び電車で抜けた。

結論から言うと、訪れた20カ国以上の中でも
ウクライナは一番好きな国になった。

国境を越える電車の中で、相席になった
おばあちゃんと、背の高いおじさんと、小太りなおじさん。

全員他人だったけど、おじさんがビールを頼んで、奢ってくれた。
彼らは呑みまくっていた。
おばあちゃんは、袋に入ったお菓子を、沢山くれた。

私が初めて出会ったウクライナ人たちは、とても陽気な人たちで、オデッサ駅についてからも、バスまで心配そうについてきてくれるほど、優しい人たちだった。

街を歩けば、おもちゃ箱の中みたいな世界が広がっていて。
道端で売っている小さなアイス屋さんのアイスが、
カラフルな赤青黄のグルグル巻きで、高さ30㎝くらい。

子供用の小さなメリーゴーランドがいたるところにあって。
チェスをする椅子と机も、道沿いにたくさんあった。

かわいくて、優しくて、のんびりしていて
大好きになった国、ウクライナ。

でも、ウクライナ旅には心残りがあった。

その旅では、友だちができなかったのだ。
他の国では、今でも交流が続いている友だちがたくさんできたのに。

今回、こんな形で、再び関わることになろうとは思ってもみなかった。
そして、人生の大切な親友が出来た。

出演してくださったセルギーイ・グリチャノックさん。

初めて出会ったその日に、コンビニでウイスキーを買ってきて
「さぁ、出会いを祝して、呑もう!」と
ポテトチップス2袋と、ウィスキー1本を、空けてしまった。

ウクライナ人は、陽気で優しい、国民性。
お酒が強くて、みんなで呑むことが好き。

ちょっとおっちょこちょいで、涙もろくて、優しくて、一生懸命で。
頼んだことは絶対全力で応えてくれる。
いつも、ユーモアも忘れない。
一人で冗談を言っては、よく笑っていた。
髭もそうだけど、サンタクロースみたいに素敵な人だった。
子ども達を愛し、愛されている。

そして、子どもたちと親御さんたち。

ウクライナの子どもが描いた絵が素晴らしいのは、
キレイや上手いからではなく、
それが何か、真実が降りてきているものだからという感じがする。

あの自由な線を見ると、いかにもう自分が、「こうしなさい」と言われた線でしか描けなくなってしまったことに気づかされる。

あの色たちを見ると、色で遊ぶということが、本来はこれほどの喜びだったのかと思う。

世界の景色に慣れていない分だけ、世界に対して驚きがある。
フレッシュな感性で眺めているから、彼らの世界は踊っている。

でもそれだけではなくて、
戦争の世界を描いた絵には
“勝手に出てきてしまう”なにかがあって。

「なぜ描いたの?」と聞かれても、答えられない。
インタビューでも、そういう答えが聞きたかったんじゃない、と思うこともしばしば。

傑作の一つが
ジェーニャ・リトビネンコさんの「半分の生 半分の死」

タイトルからして深い。

描かれた人物は、
生きながら死んでいるのか?
それとも、
死んでしまったけど、まるで生きているかのようなのか?

これはいったい、誰の、どんな姿なんだろうか?

死にそうになりながら生きているのは、ウクライナ兵か。ロシア兵か。大人たちか?

それとも、死んでしまった人間が、亡霊のように生きているのか?
あたかも、墓から「復活」してきたかのように。

答えは、無い。
直感で捉え、勝手に生まれてきてしまった絵だから。

でもこれは、生と死の本質を突いてくる怖い絵だ。

実際、私達はどれだけ、生きながら死んでいるんだろう。
そして死者は、私達の心の中で、死にきらず、どれほど生き続けていることか。

ゲオルギーイ・バスタンジニャン君の「ロシア」

描きながら、憎しみもきっとあったんじゃないかと思わせる。
その中で、意を決して描いた「STOP」の文字。

闇に飲み込まれなかった、負けなかった、
でも潰されそうだった純真さも感じる。

子ども達の絵は、この世の真実を、突いてくる。
世界の闇の底を、あるがままに見抜き、描いてしまう。
なんてすごい才能なんだろう。

これからどんなアーティストになっていくのか。

ウクライナの子ども達には、本当に、早く自分の家に戻って
のんびり落ち着いた暮らしに戻って欲しい。

そして戦争が終わったら、みんなに会いたい。

大好きなウクライナを、また訪れてみたいと願う。

MISAKI

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